青山 紘一 | (日本感性工学会知的財産研究部会長・学術博士) |
浅倉 英樹 | (東京医科大学講師・医学博士) |
犬飼 恵子 | ((株)東レアイ・ピー・イー国内事業部専門次長) |
蔭山 文次 | ((株)塩野義製薬 医薬開発本部医薬開発部次長) |
関口 順一 | (信州大学教授・工学博士) |
辻丸 光一郎 | (弁理士・池内・佐藤特許事務所(バイオ担当)) |
長塚 隆 | ((株)ジー・サーチ ネットワークビジネス本部主席部長・農学博士) |
中村 宗知 | (三菱製紙樺m的財産部担当部長) |
山田 浩一 | (帝人(株)知的財産センター) |
はしがき 第1章 本格化する遺伝子ビジネス 第2章 ゲノム特許と遺伝子ビジネス 第1節:ゲノム特許の動向 第2節:注目遺伝子・ゲノム特許の概要 第3章 増大する遺伝子特許係争 第1節:遺伝子ビジネスと特許係争 第2節:米国における遺伝子特許係争 第3節:日本における特許係争 第4節:欧州における特許係争 第5節:特許係争一覧 第4章 ゲノム研究成果の知的財産権保護 第1節:ゲノム研究成果 第2節:ゲノム研究成果の特許権による保護 第3節:ゲノム特許に関する外国の運用と国際協力 第4節:ゲノム情報の保護 第5節:遺伝子・ゲノム情報へのアクセス 第5章 ゲノム研究の展望 第1節:ゲノム科学の推移 第2節:ゲノム創薬 第3節:ゲノム医学 第4節:バイオインフォマティクス 第5節:農業・環境分野へのゲノムの利用 第6節:大学研究成果の技術移転 結語 :ゲノム研究と知的財産権保護の課題 参考資料・用語解説
出典
科学技術振興事業団 情報管理 VOL.44 NO.4 JULY 2001
JSTデータベース開発部 佐藤早苗2000年6月に「大部分のヒトゲノム暗号のおおまかな解読を終えた」との発表があり、2001年2月には解読データの詳細が公表された。
コメやコムギなどの主要農産物、ヒトや有用微生物などの遺伝子を特許で押さえることは研究開発や産業化に有利になると考えられ、遺伝子工学の基礎的な研究をもとにした多くのベンチャー企業が活躍している。日本でも2010年には25兆円産業に急拡大されると予測されている。
しかし、遺伝子は有限であり、研究成果に対する知的財産権の保護が今後の鍵である。
本書は、以下の通り5つの章から構成されている。
第1章「本格化する遺伝子ビジネス」では、情報技術を応用したバイオインフォマティクス(生物情報科学)、遺伝情報を活用した新薬開発、遺伝子医療、遺伝子組み換えによる農畜産物の品種改良技術などの現状を述べている。
第2章「ゲノム特許と遺伝子ビジネス」では、ゲノム特許の動向を述べ、注目遺伝子・ゲノム特許の事例を数多くあげ、発明の概要・クレームなどを解説している。
第3章「増大する遺伝子特許係争」では、日米欧にわたる特許係争の例をあげ、事件の概要や判決の内容を述べている。「特許証は裁判所への招待状」という言葉が遺伝子ビジネスを象徴しているといい、特許係争に敗れた企業の高額な賠償金の負担による倒産、事業の撤退があるという。逆に、ベンチャー企業が特許戦略を守り抜く特許係争を経て世界有数の製薬企業になった例もあげている。
第4章「ゲノム研究成果の知的財産権保護」では、生物関連発明と特許制度、特許性、審査運用の事例や遺伝子・ゲノム特許出願における留意点を詳説している。
また、ゲノム情報の保護や社会倫理の観点から、データベースの法的保護についても触れている。
第5章「ゲノム研究の展望」では、ゲノム研究の推移と展望、バイオインフォマティクスの将来展望、異分野への応用および大学からTLOなどへの研究成果の技術移転について述べている。「1件の特許出願は10件の学術論文に相当する」という日本の識者の言葉が紹介されている。
大学や研究機関での遺伝子工学の基礎的な研究をもとに特許・知的財産権やバイオインフォマティクスを武器とした多くのベンチャー企業が活躍し、ライセンス料や技術移転などによる巨額の収入をあげている。一方では、「ヒトゲノム特許が医学研究の阻害や医療コストの上昇をもたらす」という意見もある。
また、ゲノム研究が進めばその成果として「画期的な診断法や治療法の開発」、「医療の個別化・最適化(オーダーメイド医療)」、「個人個人の病気にかかりやすさ(かかりにくさ)のリスク判定」、「最適な医薬品の選択」等が進歩すると考えられる。ゲノム解析研究は、健康や医療に多大に寄与すると予想される。しかし遺伝情報の不適切な取り扱いは、倫理的、社会的問題を引き起こす可能性を秘めていることを忘れてはならない。遺伝情報を「知る権利」と同じく「知らないでいる権利」、遺伝情報による差別の禁止や本人の同意のない遺伝情報開示の禁止も考慮すべきである。
遺伝子・ゲノム研究の特許は21世紀の日本の社会・医療を左右するといっても過言ではない。国全体としての戦略的な対応がさまざまな波及効果をもたらすと予想する。
出典
日本経済新聞社 日経バイオビジネス 2001 06 創刊号
今月の5冊
遺伝子・ゲノム関連の特許・知的財産保護の現状と問題点をまとめた現在、この分野では最も充実した内容のレポートが本書。2001年1月5日に米国特許商標庁(USPTO)が公表した遺伝子関連特許の有用性に関するガイドライン(UTILITY EXAMINATION GUIDELINE)までもが解説されるなど、最新の情報を可能な限り取り込もうとした著者らの姿勢がうかがえる。
日本におけるバイオ分野の特許出願は、国内からの出願が45%であるのに対して、外国からの出願は55%。ほかの技術分野に比べて顕著な入超が続いている。こうした状況に危機感を募らせた著者らが、米国が進めるプロパテント戦略と特許実務の双方を視野において著述している点で、本書は類書との際立った差別化に成功している。バイオに携わるすべての人にとって必読の書といえる。
出典
週間東洋経済 2001. 8.25
テーマ書評 知的財産権を読む
弁護士、ニューヨーク州弁護士、千葉大学法経学部非常勤講師(知的財産法担当)
大野聖二金融商品に関して、従来の判例法を否定し、特許性を正面から認めた米国のステートストリート事件連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決を契機に、米国のみならず、我が国においても、ビジネスモデル特許が認められるようになってきている。
従来、特許といえば、製造メーカーの専売特許であったが、ビジネスモデル特許の出現により、金融をはじめとするサービス業等、すべての産業分野において、特許権を取得することが可能となった。特許権の範囲を広げ、その効力を強化するプロパテント政策は、不動産に代表される有形資産よりも、アイデア等の無形資産の価値を重視するという時代への転換を如実に反映しているものである。
米国特許制度の歴史をひもときながら、ビジネスモデル特許出現に至る時代的背景、日本企業への影響を平易に解説しているのが、ヘンリー幸田『ビジネスモデル特許』(日刊工業新聞社、2000年)である。実際に、日米の特許実務に精通した専門家の手になるものであり、その叙述は具体性に富む。
一時の″ビジネスモデル特許出願狂騒″とでも呼ぶべき事態は、鎮静化に向かいつつあるが、今後は、大量に出願されたビジネスモデル特許の中から、真にパイオニア発明と呼ぶに値するビジネスモデル特許の出現が予想される。その時に、ビジネスモデル特許の本当の脅威を思い知ることになる。
現に、米国においては、電子商取引の基本特許と称するFreeny Patentが五年余に及ぶ裁判闘争を通じて、その脅威を実現化しつつある。
より一般的に、特許法の知識を身につけたい人にお薦めなのが、竹田和彦『特許がわかる12章』(ダイヤモンド社、2000年)。「特許権侵害をめぐる攻防」等の特許法の基本的な一二のテーマ別に、わかりやすく解説している。企業の特許戦略の最前線において永年活躍された著者によるもので、ビジネスの視点から特許を学べる。
特許権は、特に、最先端技術分野において、国家戦略を左右するほど、多大な影響を有する。
「21世紀は、ゲノムの時代」と言われているように、ゲノム分野では、これが顕著である。特に、米国のセレーラ、インサイトに代表されるゲノム企業が他国のゲノム企業に先駆けて、ゲノム特許の囲い込みを図り、これを米国政府が強力に後押ししている構図がみられる。米国のゲノム特許戦略は、成功しつつあり、現時点においては、米国は、この分野で他国を圧倒する地位を築きつつある。
ゲノム特許の動きは、あまりにも素早く、専門家の対応も遅れており、出版も追いついていない状況にある。その中で、日本感性工学会IP研究会編著『遺伝子ビジネスとゲノム特許』(財団法人経済産業調査会、2001年)は、貴重な書である。ゲノム特許の具体例、紛争例を豊富に紹介している。
同書を読めば、いかに、我が国が米国に立ち遅れているかが理解される。
最先端技術、特に、IT関連においては、特許権だけではなく、著作権も重要な役割を果たす。
中山信弘『マルチメディアと著作権』(岩波新書、1996年)は、五年前に出版されたとは思えない斬新な書である。学会の第一人者の手によるもので、最先端技術に対して、法制度は、いかに対応すべきかということを学べる。
知的財産権全般の座右の書となるのが田村善之『知的財産法』(有斐閣、1999年)である。 大学の講義用テキストとして執筆されたものであるが、最先端の諸問題にも言及されており、何かの問題に直面したときにひもとけば、実務の指針も得られる。
http://www.chosakai.or.jp/book/