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「成熟」と「多様性」を力に
 経済社会ビジョン
〜価格競争から価値創造経済へ〜
伊藤 元重  監修
経済産業省  編

発行 2012年 11月 16日  A4判 390ページ

本体 2,857円(+税)  送料 実費

ISBN978-4-8065-2904-0

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   「はじめに」 より  イメージ
現状と課題

我が国を長らく覆う「閉塞感」の背景に、「頑張っても所得が増えない」状況がある。競争に勝つには生産性の向上が必要だとして、コストを切り詰める努力をしたものの、労働所得は下がり、その結果消費意欲も低迷し、デフレから脱却できない。一方、やりがいを持って仕事に就けないまま技能を身につけることもできない若者、子育てと両立できる仕事に就けない女性など、活き活きと暮らすことができない人も多い。

この閉塞感の背景にある経済状況には、構造的な行き詰まりがあると考えられる。

第一が「企業戦略・産業構造」の行き詰まり。規格化された製品の大量生産で成長を目指す従来のモデルで新興国と競っても、賃下げ・値下げの「やせ我慢」に陥る一方である。

第二が「就業構造」の行き詰まり。右肩上がりの成長が終焉した今、高度経済成長期に形成された「終身雇用・正社員・男性中心」の就労モデルも限界を迎えている。それどころか、正社員は守りの姿勢でハングリー精神を失う一方、意欲があっても正社員になる機会を逸した人は不公平感を抱く弊害も生じているとの指摘もある。

労働の効率性にも問題がある。我が国の2000 年代の労働生産性は毎年1.5%伸びており、他の先進諸国と比べ遜色ないが、時間当たりの労働生産性については、主要先進国に比べ2割程度も低くなっている。長時間労働で生産性を確保する労働文化ではワークライフバランスを望むべくもない。

今後の経済産業政策の方針

この2つの行き詰まり打開のため、今後の経済産業政策の大方針として、「国家としての成長と個人の豊かさを再接合」し、「成長のための成長」ではなく「豊かさを実感できる成長」へ転換することを提案する。新しい方針は「経済成長のビジョン」と「人を活かす社会ビジョン」の2本柱から成る。

経済成長ビジョン

第一の柱、「経済成長ビジョン」では、「成熟を力にした」価値創造経済を創出する。成熟に裏打ちされた日本人の感性や技術力を発揮することにより潜在内需を掘り起こし、グローバル市場を獲得する。

国内需要は「物質的豊かさ」から「成熟した豊かさ」の追求へと転換している。また、アジアにおいては、<1>「日本品質」がそのまま受け入れられる富裕層と<2>爆発的な購買力を持つ中間層が誕生している。

このような市場環境を見据え、まず第一に、企業戦略を転換することが必要である。我が国企業の多くは、本来の強みである優れた文化や感性をビジネスに変えることができていない。「技術」で勝っても「事業」で負けてしまい、したたかに「稼ぐ」ことができないでいる。こうした課題を克服し、「大量生産・価格競争」モデルから、高くても売れる商品やサービスを生み出す「価値創造」モデルに転換していく必要がある。

第二に、グローバル展開を進め海外の成長の果実を国内に取り込むことが必要である。攻めの経営で海外展開していった企業は、国内においても雇用を増加させている。我が国企業は、アジアなどのボリュームゾーンや富裕層に向け、現地化と差別化に積極的に取り組むべきである。

そして、第三に、新産業創出に取り組み、多様な稼ぎ頭による「八ヶ岳」構造の産業構造へ転換を進めることが必要である。「成熟した豊かさ」を求める社会的なニーズに対応する新産業については、既に多くの成長の芽が存在している。

このような企業戦略・産業構造の転換を促進するため、経済産業省は、現在国会に提出中の「課題対応事業促進法案」や「中小企業経営力強化支援法案」を含め、あらゆる施策で強力にバックアップする。

人を活かす社会ビジョン

第二の柱「人を活かす社会ビジョン」では、女性、若者、高齢者、障害者を始め、国民一人一人が、置かれた環境と能力に応じて、価値創造に参画し、成長を分配することで、活き活きと働く人々が増える経済を実現する。「ワーカー」から「プレーヤー」へ向けた、働き方の改革である。例えば、「ダブルインカム・ツーキッズ」を通じて世帯所得増加と少子化克服を実現する。さらに、「全員参加」の推進により「全世代で支え合う社会」へ転換する。全員参加で「厚みのある中間層」を形成することにより、人口減少の中でも一人あたり国民所得を維持・増大し、成熟した豊かさを実感できる社会の実現を目指す。

このため、「多様な人的資本」による「価値創造」実現に向けた環境整備を経済産業政策で進めていく。我が国にとって、価値創造の原動力は「人的資本」である。ところが、高度経済成長期に形成された硬直的・画一的な「正社員」モデルの就業構造は、長期雇用を前提とした配置・職種転換や能力開発などによる企業内での柔軟な人材活用に寄与する一方で、異分野の知識・経験、価値観の衝突による価値創造を阻み、能力を最大限発揮することが出来ない人材を生み出してしまっているとの指摘もある。

こうした構造を変えていくためには、まず第一に、多様性を高めイノベーションを創出することが必要である。女性、若者、高齢者、障害者、外国人等一人一人が、置かれた環境と能力に応じて価値創造に参画できる環境を整備する「ダイバーシティ・マネジメント」が重要となる。

第二に、価値創造をリードする人材が育つ環境を整備することが必要である。価値を生み出す新事業を白地から描く「イノベーション人材」、新興国市場を開拓する「グローバル人材」を育てていく必要がある。

第三に、産業構造、企業戦略の転換が進む中で、円滑な労働移動が必要である。今後10年間で、新産業で1000 万人規模の就業者が必要となり、さらに200 万人規模で、生産現場から技術職等への職種転換が必要となる。このため、女性、高齢者、若年層の就業者を確保していく。さらに、社会人の「学び直し」機会やセカンドキャリアを創出していく。このような「多様な人的資本の活用」を民間の力で進めようという新しい動きもある。こうした「人を活かす産業」を新たな産業の柱として育成していくことが重要である。

以上の施策を関係省庁と連携しながら実施し、「豊かさを実感できる経済社会」の実現に取り組んでいく。


主要目次
はじめに

第1部 総論編 〜価格競争から価値創造経済へ〜

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  第1章 我が国の経済社会の現状
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   1.「やせ我慢」の縮小経済 
    (1)企業の生み出す付加価値の低迷 
    (2)雇用環境の悪化・将来不安の増大による国内消費の低迷 
    (3)交易条件の悪化 
   2.現状を放置した場合のリスクシナリオ
    (1)円高等による根こそぎ空洞化のおそれ 
    (2)国債の国内消化が限界となるおそれ 
  
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  第2章 目指すべき経済社会と政策の基本的方向
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   1.戦後から現在に至るまでの我が国の成長モデル
   2.目指すべき経済社会ビジョン
   3.政策の基本的方向
  
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  第3章 今後取り組むべき政策
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   1.「価値創造」を通じた潜在内需の掘り起こしとグローバル市場獲得 
    (1)企業戦略の転換(価格競争から価値創造競争へ)
    (2)グローバル展開の推進(海外の成長果実の取り込み)
    (3)新産業創出と産業構造の転換(「一本足」から多様な稼ぎ頭の「八ヶ岳」構造へ)
   2.「多様な人的資本」による「価値創造」の実現 
    (1)多様性によるイノベーションの創出(ダイバーシティ・マネジメント)
    (2)価値創造をリードする人材が育つ環境作り 
    (3)円滑な労働移動(多様な人材の能力最大限発揮)
   3.急速な産業空洞化を回避し価値創造社会への転換を実現する間の時間軸調整
    (1)「守り」の対策 
    (2)持続可能な社会保障制度 
  
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  第4章 経済産業構造と就業構造のシミュレーション
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   1.経済産業構造・就業構造の変化
    (1)日本の産業構造の変化 
    (2)産業構造変化の国際比較 
    (3)就業構造の変化 
   2.2020 年までのマクロ経済 
    (1)マクロ動向 
    (2)経常収支動向 
   3.2020年の産業構造 
   4.2020年の就業構造 
    (1)マクロ動向 
    (2)産業別の就業者数の変化 
    (3)産業内の職種変化 
    (4)男女別の職種・賃金の見通し 
    (5)業種別の職種・賃金の見通し 
    (6)所得分布の変化 

第2部 施策編 〜「攻め」の経済産業政策〜

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  第1章 「価値創造」を通じた潜在内需の掘り起こしとグローバル市場獲得
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   1.新産業の創出と産業構造の転換
    (1)課題解決型産業<1>:ヘルスケア産業 
    (2)課題解決型産業<2>:子育て支援サービス 
    (3)課題解決型産業<3>:新たなエネルギー産業
    (4)クリエイティブ産業 
    (5)先端産業 
   2.グローバル展開
    (1)高いレベルの経済連携の推進 
    (2)新興国市場の開拓 
    (3)インフラ・システム輸出を加速するための国際競争力強化について 
    (4)資源確保戦略の策定を通じた官民挙げた資源確保の推進 
    (5)中小企業の海外展開支援 
    (6)低炭素技術・製品等の市場開拓 
    (7)流通業・販売金融業の海外展開支援 
    (8)海外における特許等の適切な保護 
    (9)円高メリットを活用した海外M&A促進、資源権益確保 
    (10)海外で稼いだ収益の国内への還流促進 
    (11)アジア拠点化の推進 
   3.企業戦略の転換
    (1)新産業・新事業創出のためのイノベーションの加速 
    (2)企業の国際競争力強化に直結する戦略的な国際標準化の推進 
    (3)IT利活用の促進 
    (4)顧客接点を重視した差別化・高付加価値化サービス経営モデルの推進 250
    (5)中小・小規模企業の技術力の強化、技術・技能の継承 
    (6)中小・ベンチャー企業の起業・創業促進 
    (7)成長資金の円滑な供給 
    (8)コーポレート・ガバナンスの確立 
    (9)流通機能の競争力・リスク耐性の強化 

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  第2章 「多様な人的資本」による「価値創造」
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   1.多様性によるイノベーションの創出
    (1)「ダイバーシティ経営」(多様性を活かす経営)の推進 
    (2)多様な働き方の確立に向けた環境整備 
   2.価値創造をリードする人材が育つ環境作り
    (1)価値を生み出す新事業を創出するイノベーション人材の発掘・活用 
    (2)産学連携によるイノベーション創出人材の育成の推進 
    (3)若者の海外への送り出し支援 
    (4)教育投資の拡大 
   3.円滑な労働移動
    (1)「人を活かす」産業の創出・振興による社会人の「学び直し」機会の創出支援
    (2)新卒採用市場におけるミスマッチの解消による若者の就労促進 



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