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特許権・進歩性判断基準の体系と判例理論
永野 周志  著

発行 2013年 5月 27日  A5判 430ページ

本体 4,300円(+税)  送料 実費

ISBN978-4-8065-2922-4

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   「はじめに」 よりイメージ
発明に「新規性」と「進歩性」とがなければ、発明に特許権は成立しません。

発明に特許権が成立するために必要とされるこの2つの条件のうちの「新規性」とは、『特許庁から特許を受けようとする発明がその特許出願前に公然と知られた発明等(以下「先行公知技術」といいます。)と同じではないこと』をいいます。したがって、特許を受けようとする発明に「新規性」があるかどうかは、それと先行公知技術とが同一であるかどうかによって判断されますから、その判断に判断する人物の主観や価値観が入り込む余地はありませんし、その判断も容易です。

ところが、発明に特許権が成立するために必要とされるもう1つの条件である「進歩性」については、その判断は容易ではありません。なぜならば、特許法は「進歩性」を『特許を受けようとする発明が先行公知技術に基づいて容易に発明することができないこと』と規定しているからであり、「進歩性」があるかどうかを区分する「容易」とは、幅のある概念であって、しかも、その幅を数値によって表すことができないからです。

そのため、同じ発明について、ある人Aは進歩性があると判断しても、他の人Bは進歩性がないと判断する事態がおこることが避けられません。

しかし、発明に特許権が成立するかどうかを予測したりそれを判断することが困難であることは、極めて深刻な問題を引き起こします。

第1に、これから開発しようとする発明に特許権が成立するかどうかを予測することができなければ、その発明の開発に投じる技術開発費を特許権の成立によって得られる独占的超過利益の中から回収できるかどうかを予測することができませんから、技術開発にゴー・サインをだしてよいのかどうかの決断ができません。蓋を開けたところ、予測に反して特許権が成立しなかったというのであれば、技術開発費は経営資源の浪費として結果します。

第2に、他社の開発した発明に特許権が成立するかどうかを予測できなければ、また、その発明が受けた特許が無効となるかどうかを判断することができなければ、自社がその発明と同じ発明を事業化してよいかどうかの決断もできませんし、その発明に特許権は成立しないであろうとの予測が覆ったときは、その予測に基づいて行った事業は全くの無駄になってしまいます。

「進歩性」の判断基準を明確にするためにとりまとめられたものに、特許庁がガイドラインとして公表している「特許・実用新案審査基準」「第II部 特許要件」(2006年6月)があります。

しかし、「特許・実用新案審査基準」は「進歩性」が否定することができる事由を結論的に列挙する形式をとっているため、例えば、判例上進歩性が肯定される事由であることが認められている「阻害要因」のように、「特許・実用新案審査基準」に列挙されていない場合についての進歩性判断はどうなるかを読み取ることはできません。また、例えば、進歩性が否定される事由であるとしている「設計事項」のように、その定義がされていないものがあるため、進歩性の判断基準が不明確なままになっているものがあります。これ以上に問題であるのは、進歩性が否定される事由とされている「技術分野の関連性」に代表されますが、「特許・実用新案審査基準」の内容にそれが平成18年に公表されてから今日に至るまでの数多くの判決−特に知的財産高等裁判所の判決−の積み重ねによって形成されてきた進歩性の判断基準についての判例法と乖離が生まれつつあり、「特許・実用新案審査基準」では、進歩性判断に十分に対処しきれなくなりつつある点です。

「特許・実用新案審査基準」に基づく特許庁の進歩性判断の運用と判例法との乖離の兆候は、それの公表直後の判決である知財高判平成18年6月29日・平成17年(行ケ)第10490号審決取消請求事件(「紙葉類識別装置の光学検出部」事件)にみられます。そして、それを決定づけたのが知財高判平成21年1月28日・平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件(回路用接続部材事件)です。その乖離は、広範囲に及んでいます(例えば、周知技術を理由として進歩性を否定する場合の特許庁の運用のありかたを批判した知財高判平成24年1月31 日・平成23年(行ケ)第10121号審決取消請求事件(「樹脂封止型半導体装置の製造方法」事件))。進歩性の判断についての近年におけるこれらの判決をはじめとする各判決の前提にある考え方は、進歩性判断は検証可能なものでなければならず、「容易に想到することができる」ことを認定できる客観的証拠がなければ、進歩性を否定することはできない、という考え方です。

上記のとおりの考え方は、しごく当然な考え方です。

しかし、問題は、客観的証拠によって認定されるべき「容易に想到することができる」事実の内実は何か、そして、「容易に想到することができるかどうかを検証可能にする」とは具体的にはどのようなことであるのかです。それが明らかにされなければ、「容易」という概念が不明確であるために「進歩性」の判断や予測が困難である事態から抜け出すことはできないからです。

本書は、以上のとおりの問題意識に基づいて、「容易想到性」についての統一的な判断基準の考え方を論述するとともに、他方において、このことを踏まえて、裁判例の中から、とりわけ、「紙葉類識別装置の光学検出部」事件判決以降の進歩性判断のありかたを判示した近年の判決から「容易想到性が肯定される事由」や「容易想到性が否定される事由」を抽出し、進歩性の判断基準を体系化したものです。

本書が審判手続や特許訴訟に関与する弁理士や弁護士等の実務家の手引きとしてだけでなく、技術開発、技術開発管理、知的財産管理等の各業務に従事する人々にとっての手引きとなり、効率的な技術開発に寄与することができるならば、著書として幸甚の至りです。


主要目次
はじめに

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第1章 「進歩性」判断の枠組み
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1 「進歩性」についての特許法の定義
 (1)発明に特許権が成立するために必要な条件
 (2)考案に実用新案権が成立するための条件

2 発明の構造とその表し方
 (1)発明の論理構造
 (2)発明の内容の表し方についての特許法の規定

3 進歩性の有無の判断のしかた
 (1)「一致点に係る技術的構成」と「相違点に係る技術的構成」
 (2)容易想到性を肯定することができるための条件−「一般的条件の構成」と「特殊的条件の構成」

4 進歩性の有無を判断する手法とプロセス
 (1)進歩性の有無を判断する手法
 (2)進歩性の有無を判断するプロセス
 (3)進歩性を判断するステップについての特許庁の立場

5 進歩性の判断についての論点
 (1)進歩性の有無を争点とする特許庁での手続と訴訟
 (2)訴訟における争点と進歩性の有無の判断についての論点

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第2章 「相違点に係る技術的構成」の抽出のための諸問題
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1 本件発明の認定のありかた.発明の要旨の認定
 (1)問題の所在
 (2)リパーゼ事件判決ルール
 (3)「発明の詳細な説明」の記載を参酌した「発明の要旨」の認定が禁止される理由
 (4)リパーゼ事件判決ルールの意義
 (5)「発明の詳細な説明」の記載を参酌して「発明の要旨」を認定することができる場合
 (6)「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」についての「発明の要旨」の認定

2 引用発明の認定のありかた
 (1)引用発明の認定に用いることが許される先行公知技術
 (2)引用発明の認定における周知技術の取り扱い

3 「相違点に係る技術的構成」の抽出・認定
 (1)「相違点に係る技術的構成」の抽出・認定に先立つ作業
 (2)「相違点に係る技術的構成」の抽出・認定
 (3)「特許請求の範囲」の記載に基づかない「発明の要旨」の主張

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第3章 容易想到性の判断基準−副引用発明を必要とする場合
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1 「容易想到性の第2条件」についての考え方
 (1)はじめに
 (2)容易想到性の第2条件の内容

2 現行審査基準の定める「動機づけ」となる事由(1)−技術分野の関連性
 (1)「同一技術分野論」の内容
 (2)「同一技術分野論」の問題点
 (3)「同一技術分野論」の評価−「同一技術分野論」の限界

3 現行審査基準の定める「動機づけ」となる事由(2)−課題の共通性
 (1)はじめに
 (2)本件発明の技術的課題を論じることの意義
 (3)主引用発明に副引用発明を適用する類型と「課題の共通性」の内容
 (4)本件発明の課題とは別の課題を有する引用発明を出発点とした発明の容易想到性

4 現行審査基準の定める「動機づけ」となる事由(3)−作用・機能の共通性
 (1)「着想の契機」としての作用・機能
 (2)本件発明の作用効果が「顕著な作用効果」である場合の本件発明の進歩性
 (3)「選択発明」とそれの進歩性の条件

5 現行審査基準の定める「動機づけ」となる事由(4)−引用発明の内容中の示唆
 (1)「引用発明の内容中の示唆」の2つのタイプ
 (2)発明の論理構造に係る事項の共通性

6 「容易想到性の第2条件」が充足される場合(1)−適用可能化技術の存在
 (1)「適用可能化技術」の不存在を理由に容易想到性が否定された事例
 (2)実施化局面技術と「容易想到性の第2条件」

7 「容易想到性の第2条件」が充足される場合(2)−主引用発明の構成要件の一部の除去
 (1)「要件除去型の発明」の容易想到性の判断基準
 (2)「要件除去型の発明」の容易想到性についての裁判例

8 回路用接続部材事件判決と「引用例中の示唆論」
 (1)はじめに
 (2)「引用例中の示唆論」の意義とそれが果たす役割
 (3)いわゆる「後知恵」による容易想到性の判断

9 容易想到性を否定する根拠となる事由.阻害要因
 (1)「阻害要因」の定義と機能
 (2)「阻害要因」についての「特許庁審判部の4類型」と「阻害要因」の内容との関係
 (3)引用例における「先・先行技術」の適用を排除する旨の記載と「阻害要因」
 (4)主引用発明への副引用発明の適用が「副作用」を惹起する場合の「阻害要因」性

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第4章 容易想到性の判断基準−副引用発明を必要としない場合
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1 副引用発明を必要としない場合における「容易想到性の根拠となる事由」
 (1)いわゆる「設計事項」
 (2)「設計事項等の第1条件」−「特殊的条件の構成」
 (3)「設計事項の第2条件」−「当業者が必要に応じて調整しうる裁量事項」
 (4)限定可能化技術

2 「数値限定発明」の容易想到性
 (1)「数値限定発明」の容易想到性の基本的な考え方
 (2)数値限定の臨界的意義
 (3)複数の変数がある数値限定発明

おわりに−進歩性と商業的成功
掲載判決年月日別一覧表



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