平成２６年３月１１日に閣議決定された「特許法等の一部を改正する法律案」は、第１８６回通常国会に提出され、同年４月２日に参議院本会議で可決された後、同年４月２５日に衆議院本会議で可決されて成立し、同年５月１４日に法律第３６号として公布されました。
本法改正は、平成２５年６月に閣議決定された「日本再興戦略｣及び｢知的財産政策に関する基本方針｣を踏まえ、今後１０年間で我が国が世界最高の｢知的財産立国｣となるべく、知的財産の更なる創造・保護・活用に資する制度的・人的基盤を早急に整備するための措置として講じられたものです。
具体的には、国際的な制度調和の観点も踏まえ、特許法（救済措置の拡充及び特許異議の申立て制度の創設）、意匠法（複数国に意匠を一括出願するための規定の整備）、商標法（保護対象の拡充及び地域団体商標の登録主体の拡充）等の改正による制度的基盤の整備を行うとともに、弁理士法（弁理士の使命の明確化・業務の拡充）の改正による人的基盤の整備が行われました。
本書は、これらのうち、特許法改正により創設された「特許異議申立制度」について解説を加えるものです。特許異議申立制度は、特許付与後の６か月に限り、広く第三者にその取消しを求める機会を与え、申立てがあったときは特許庁が自ら特許処分の適否を審理し、暇疵がある場合にはその是正を図ることにより、特許に対する信頼を高めるという公益目的を達成するために導入されました。
筆者は、平成２４年４月から平成２５年３月まで特許庁審判部審判課審判企画室にて勤務し、その間、特許法の改正作業に従事しました。そこで、新たに創設された特許異議申立制度をわかりやすく解説することで、実務家の皆様が当該制度を活用される際の一助となればと思い、本書を執筆するに至ったものです。
第I章ではフローチャート等を用いて特許異議申立ての手続を概説しました。次に、制度の位置付けについて理解を図るべく、第II章では我が国における特許無効審判や異議申立制度の変遷について説明し、第III章では平成１５年特許法改正により廃止された特許異議申立制度と新たな特許異議申立制度を比較し、第IV章では特許無効審判と特許異議申立制度を比較しました。また、本改正では特許異議申立制度の導入に伴い、特許無効審判の請求人適格が利害関係人に制限されましたので、この点につき第V章で解説を加えました。さらに、第VI章では今回改正された特許異議申立制度に関する条文を網羅的に解説し、第VII章では諸外国における同種の制度について概説しました。なお、本書における法令の解釈にわたる部分については、筆者の見解を示したものであり、特許庁の見解を示したものではありません。
特許庁勤務時には、当時審判部長であられた木原美武様をはじめ、小菅一弘様、吉村和彦様、小林明様、前田仁志様、野仲松男様、門田かづよ様、田口傑様、遠山敬彦様、後藤慎平様、その他審判企画室及び制度改正審議室の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りして、あらためて御礼を申し上げます。
平成２６年５月
弁護士 髙畑豪太郎
