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財団法人経済産業調査会 出版案内
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 解説 特許法−弁理士本試験合格を目指して−  (本紙13ページ〜20ページ相当)
第1章 特許法の法目的(第1条*1

1.学習の指針
 特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする(1条)。
 本章では、特許法の目的の意義、特に「産業の発達」という法目的が、「発明の保護」と「発明の利用」両者のバランスの下で達成される理由を正確に理解する必要がある。
 また、特許法2条以下の規定を法目的(1条)達成のための手段と捉え、第2章以降を読み進む上で、それぞれの規定が「発明の保護」として機能するのか、或いは「発明の利用」として機能するのかを把握することも特許法を理解するのに役立つ。

2.特許法の法目的(1条)の概略
 新たな発明は、それが実用化されることで新たな産業を生むなどして産 業の発達を促進し、また、発明が広く開示され文献的にも利用されること で次々と新たな改良発明が生まれ、相乗的に産業が発達する。
 しかし、有用な発明に何等保護を与えなければ、発明が秘蔵化され、ま た、模倣行為が蔓延するため、創作意欲が減退し有用な発明が生まれず、 産業活動が停滞する。このため、発明公開による不利益を十分補える特許 権によって発明は保護されるが、特許権の保護期間が1 年、200年などと 長すぎる場合にも、産業活動を阻害することになる。
 そこで、特許法は、特許権による保護を図る一方で、特許権の保護期間を出願日から20年とすることにより、発明の保護と利用をうまくバランスさせて、産業の発展を図ることを目的としている(1条)。
*1 第1条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

1−1.法目的における「保護と利用」の意義
 特許法の条文集を開けて最初に現れるのは、「第一章総説1条(目的)」であるが、特許法第1条は、特許法の目的を「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」と規定している。
 すなわち、特許法の目的は「産業の発達」にあるが(1条)、特許法第1条には、「産業の発達」という最終目的に加えて、「発明の保護及び利用を図ること」というその目的達成のための手段についても規定されている。以下、「発明の保護及び利用」と「産業の発達」との関係について説明する。
 新たな発明は、それが実用化されることで新たな産業を生むなどして産業発達の原動力になるが、文献的にも広く利用されることで次々と新たな改良発明が生まれ、相乗的に産業の発達に寄与することになる。
 しかし、わが国が発明について、何等保護規定を設けず、模倣自由という政策を採ればとうなるであろうか。多大な投資を行いリスクをかけて発明につながる新規技術を開発するよりも、模倣したほうが遥かにリスクが少なく得策ということになるため、極端にいえば、誰もがリスクを伴う新規技術の開発を止め模倣盗用を行うことにもなり兼ねない。
 かかる場合、一時的に発明が利用された製品の価格は下がっても、新規技術の開発が停滞する結果、長期的視野で考えた場合、産業の発達が阻害されることは明らかであろう。また、優れた発明をした者は、それを公開せず秘蔵化すると考えられるため、それらの改良発明が生まれず、間接的に産業の発達が阻害されることになろう。
 そこで、特許法は、発明が公開されてもそれを補って十分な利益が得られるよう、独占排他権である特許権(68 条)を付与して発明の保護を図ることにより発明の創作活動を奨励している。但し、発明の保護が厚すぎる場合、例えば、特許権の存続期間を出願日から10年などとした場合は、独占権による弊害が、保護が不十分であることの弊害よりもはるかに大きなものとなり、却って産業の発達を阻害することとなる。また、特許権の存続期間を出願日から1年などとすると発明の利用は図れるが、上述した保護が不十分であることによる弊害が増大する。このため、特許法は保護と利用の妥当な調和を図るべく特許権の保護期間を出願日から20年と定めている(67条)。
 一方、産業の発達のために本来必要とされる発明の利用も積極的に図るべく、特許法では、特許出願日から原則1年6ヶ月経過後に出願内容を一律に公開する出願公開制度(64条)を採用すると共に、特許権発生後は特許発明を特許掲載公報に掲載することとして(66条3項)発明の文献的利用を積極的に促進している。
 さらに、特許法は他人に実施権を設定することなどを可能とし(77条、78条等)、また、所定の場合に特許権の効力を制限(69条など)することで、第三者にも発明実施の機会を与え、発明の実施上の利用も積極的に促進している。
 以上の通り、発明の利用のみを図っても、発明が秘蔵化され、また新たな発明が生まれず産業活動が停滞することから(図1−1(a))、発明を独占排他権である特許権によって保護する一方、保護が厚すぎても発明の利用を十分図ることができないため、特許権の存続期間を出願日から20年に制限することにより、発明の保護と利用のバランスを適切に保ち、法目的である産業の発達(1条)を図っているのである(図1−1(b))。



図1−1(a)




図1−1(b)


1−2.特許法における発明の保護
 発明は独占排他権である特許権(68条)により実体的に保護されるが、特許権の発生前においては、特許を受ける権利(33条)及び補償金請求権(65条)によって発明は保護されることになる。
 また、特許出願の審査の過程で、特許出願人が柔軟に特許権を取得できるよう、手続補正(17条、17条の2)、出願分割(44条)、出願変更(46条)、及び国内優先権の主張(41条)など様々な手続的保護が与えられている。

1−2−1.実体面での保護
 図1−2は、実体面で発明を保護するために特許権者に付与される権利である(1)特許権、(2)特許を受ける権利、及び(3)補償金請求権について、それぞれ発生時期との関係を示している


図1−2

(1) 特許権による保護
 特許法には、発明の保護に関する様々な規定が存在するが、発明の保護は特許権を付与することによって達成されるといえる。特許権は、特許発明の実施を専有できる権利であるため(68条)、発明公開による不利益を十分補うことができ、結果として、発明の秘蔵化を防止し、発明の奨励を図ることが可能となるためである。

(2) 特許を受ける権利による保護
 特許権は、特許出願を行い、実体審査を経て設定登録がされてはじめて発生するが(66条)、発明は技術的思想の創作としてそれ自体価値があるため、発明の完成から特許権が発生する設定登録までの間は、特許を受ける権利により保護される。
 特許を受ける権利は、特許権のように独占排他権ではないため、それ自体で他人の実施行為を排除することはできないが、財産権として移転することが可能となる(33条、34条)。また、特許を受ける権利を有することが特許権を得るための要件となるため(49条7号)、少なくとも発明を模倣した者による特許権取得が阻止される。

(3) 補償金請求権による保護
 後述するように、特許出願にかかる発明の文献的利用を可能とするため、特許出願は、原則として出願日から1年6ヶ月経過後に出願公開されるが(64条)、かかる公開により、特許出願にかかる発明は、第三者に模倣、盗用される機会も増加すると考えられる。このため、出願公開がなされた後、発明は、特許を受ける権利に加えて、所定要件下補償金請求権によっても保護される(65条)。これにより、特許出願にかかる発明を実施する者に対して、所定要件下、補償金請求権に基づき実施料相当額の請求が可能となる(65条1項)。ただし、補償金請求権は、特許権発生を前提とする権利であるため、特許権が適法に発生した後でのみその権利行使が認められる(65条2項)。

1−2−2.手続面での保護
 特許出願から特許権の設定登録がされるまでの間、特許出願人には、柔軟に特許権の取得ができるよう、手続補正(17条、17条の2)、出願分割(44条)、出願変更(46条)、及び国内優先権主張(41条)などの手続きが認められる。
 例えば、手続補正(17条、17条の2)により、出願後に発見された明細書等の出願書類の不備を解消し、また、拒絶理由通知で示された先行技術を回避できるため、特許出願人は特許出願後も柔軟に権利取得を行うことが可能となる。
 また、出願分割(44条)、出願変更(46条)、及び国内優先権の主張(41条)についても、同様に特許出願人が柔軟に権利取得を行うことを可能とする手続きとなるが、詳細は、第3章を参照されたい。

1−3.発明の利用
 発明を保護するだけでこれを利用できなければ、法目的である産業の発達(1条)を達成できない。発明の利用は、発明の文献的利用と実施上の利用とに大別されるが、それぞれの利用を促進する規定が特許法に設けられている。

1−3−1.発明の文献的利用
 特許出願された発明を原則出願日から1年6ヶ月経過後に公開する出願公開制度(64条)を採用することで、特許出願された発明の早期の文献的利用が可能となる。これにより、特許出願された発明について、重複投資や重複研究などがなされるという弊害が回避され、また、改良発明の創作が促進されるため、技術の累積的進歩による産業の発達を図ることが可能となる。
 なお、発明を利用できる程度に出願書類が記載されていない場合、出願書類の内容を公開しても、発明の文献的利用及び実施上の利用が図れないことから、出願書類である明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載することが特許要件として規定されている(36条4項1号、49条4号)。

1−3−2.発明の実施上の利用
 特許権が有効な期間は、特許権者により発明が積極的に実施され(68条)、また特許出願日から20年経過後は、存続期間が満了し(67条)第三者による自由実施が可能となる。
 また、専用実施権(77条)又は許諾による通常実施権(78条)、法定実施権(35条、79条〜82条)、及び裁定実施権(83条〜93条)を認めることによって特許権者以外の第三者による特許発明の実施が促進される。
 さらに、試験研究のための実施などについて特許権の効力を制限することにより(69 条など)、発明の実施が促進される。
 以上のとおり、特許権者の実施、及び第三者に発明を実施する機会を広く与えることにより、発明の実施上の利用が促進される。そして、発明が実用化されることで広く新たな産業が生まれるなどして産業の発達を図ることが可能となる。

1−4.発明の奨励
 上述した独占排他権である特許権(68 条)の付与等による発明の保護を図ることにより、発明の創作活動が奨励される。そして、かかる発明の奨励により、次々と創作される有用な発明が文献的に利用されることでさらに改良発明が生まれ、これらの発明が実際に実用化されることにより、産業の発達という法目的(1条)が達成される。

1−5.まとめ
 以上の通り、特許法は、特許権を付与すこと等により、発明に十分な保護を与えると共に、発明の文献的利用及び実施上の利用を積極的に進め、両者をうまくバランスさせることにより、その法目的たる産業の発達(1条)を図ろうとするものである。
 そして、特許法1条において記載した「発明の保護と利用」を具体的に実現するための手段として特許法2 条から204 条が規定されており、これらの条文に示された規定の内容を適切に運用することにより、発明の保護及び利用のバランスが適切に保たれ、法目的である産業の発達(1条)が図れるのである。
 特許法を学ぶ上で、序論図4で示したように特許法の全体像を把握することにより個々の規定を理解することが容易となるが、法目的(1条)の視点から全体像を把握することも個々の規定を理解するのに役立つ。上述したように、特許法1条に規定する法目的を達成するために特許法2条以下の規定が存在することを考えると、図1−3に示されるように、特許法は発明の保護に関する規定と発明の利用に関する規定におおよそ大別することができる。
 もちろん、特許制度を運用する上で種々の補助規程が存在することから各条文がいずれかの規定に完全に当てはまるといえない場合もあろうが、特許法上の各条文が発明の保護或いは利用のいずれを達成するための規定であるかを把握することは、特許法の法体系を理解し、特許法に規定された各条文の解釈を行う上でも非常に有意義となる。


図1−3

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