21世紀に入り、我が国の産業と金融の状況には大きな変化が生じています。国内的には不良債権問題を脱し、金融システム自体は安定感を取り戻し、経済も回復基調にあります。また、事業会社の財務構造を見ると、大企業は急速に米国型に近づきつつある一方で、中小企業においては依然間接金融中心の財務構造であり、構造的に二極化が進んでいます。
一方、世界に目を向けると、90年代後半以降実物経済に比較して、世界的に金融経済の拡大が進んでおり、米国や英国では金融産業を推進力とし高い経済成長を実現する一方、中国を中心とする新興国が輸出市場での存在感を強めつつあり、急速に世界の経済システムが変化してきています。
さらに、我が国産業とアジアとの関係を見ると、アジアは、「生産拠点」としてだけではなく「市場」としての魅力も増大している一方、現地での金融規制、税制等の残存や金融市場の未成熟があり、我が国産業のアジア展開に比してアンバランスが生じています。
次に、我が国の経済成長の在り方に関する昨今の論調を極論すると、英米の金融産業に倣おうとしてもいたずらにマネーゲームを拡大するものであるとする論調と、米国や英国に倣って金融産業を中心とした成長を目指すべきだとする論調の二つの論調があるような印象を受け、一部においては、産業と金融が相反するかのような議論まで見られています。
経済産業省では、2007年6月に経済成長戦略大綱(金融パート)を改訂し、経済成長に必要な金融システム改革の一端を示すとともに、9月にグローバル産業金融研究会報告、12月に産業金融部会産業構造審議会の中間報告をそれぞれ取りまとめました。これらの報告は、それぞれ、「アジア産業金融圏構想を具体化するための課題・解決策・今後の方向性」、「産業発展・経済成長に寄与する金融・資本市場等の競争力強化の在り方」について検討を行ったものです。
それぞれの検討に一貫しているのは、我が国における産業と金融の両立に向けた方策とは何か、我が国の経済成長に寄与する内外の金融システムの在り方は何か、という問いかけです。
本書は、上述の二つの報告の要点を産業と金融の両立という観点から一つにまとめるとともに、金融に詳しくない産業界の人々も念頭において内容を補足し、今後の産業金融政策の方向性を平易に解説するものです。是非ご一読ください。