日本経済は、リーマンショックに端を発した世界的な経済・金融危機から回復しつつあるという見方もありますが、国民の暮らしの「閉塞感」は何ら改善されていないというのが率直な実感ではないでしょうか。
こうした「閉塞感」の背景には、かつて世界で重要な位置を占めていた日本産業が、熾烈なグローバル競争の中でいつしか相対的に競争力が弱まりつつあり、将来「何を強みに発展していくべきか」が見えてこないことがあります。その象徴的存在として語られるのが、「世界最先端のIT国家」として日本経済を牽引してきたエレクトロニクス・IT産業です。
逆の視点から鑑みれば、エレクトロニクス・IT産業の苦戦の原因を解明することにより、現在の日本の「行き詰まり」に活路を見いだすことが可能になるのではないかという着想で、2010年2月から産業構造審議会情報経済分科会において、エレクトロニクス・IT産業の課題や世界の動向などが分析されました。
そこで明らかになってきたのは、我が国のエレクトロニクス・IT産業が高度な技術力を自身の強みとして認識したのみにとどまり、国内マーケットはもとより、新しく開かれたグローバルマーケットも含めた舞台で、実際のサービスやソリューションの提供ができていなかったのではないかという実像でした。国際戦略や標準化戦略の欠如や大胆投資への躊躇、世界の新たな動きに目をむけず、我が国が内向き志向になるのとは対照的に、諸外国では新たなサービスの創出と展開を産業政策として進めると同時に、大胆なリーダーシップで電子政府や農業・医療のIT化など、利用者側のIT化をドラスティックに進めたことで、日本は独自の技術を発展させつつも、ITサービスの実現・普及という観点では世界から置き去りにされつつあるとの感があります。
こうした厳しい現実を直視した上で、なおかつ我々の眼前には大きなリスクとチャンスがあることを忘れてはなりません。クラウド・コンピューティングを始めとした新たなサービスの登場や新興国の旺盛な成長力、環境問題や医療問題といった社会的課題を受け身に捉えれば、悲劇的な考えになりかねないでしょうが、しかし、これを日本のITによる新しい課題の解決力を世界に示し、大きく貢献する絶好の機会と考える発想の転換を行うことで、世界最先端のIT国家の地位回復に向けた戦略の立て直しは可能です。
今回、これまでの発想から転換を図る起爆剤として、日本初となるインターネットを活用した国民参加の仕組み「アイディアボックス」を実施しました。3週間という短期間に、約4,000名の参加と約6,000件ものコメント投稿をいただくなど、多くの国民参加の下、練られたものが「情報経済革新戦略」です。エレクトロニクス・IT産業の構造改革を進め、短期間で競争力を強化すると同時に、戦略的にITと一体となった産業・社会システムの高次化を構築し、その海外展開を進めるための具体的な処方箋を示した者となっています。
是非、ご一読ください。