2008年2月の初版発行以降、多くの判例が出されましたが、今回の改訂版の発行に当たりましては、最近の判例を中心に、初版では紹介できなかった考え方を示しているケースを取り上げました((119)から(127)の判決)。
さらに、最近は、米国特許制度に特有な情報開示義務制度に伴う、不衡平な行為に関する判例が多く出ていることから、これらに関する判例も追加しました。特に、不衡平な行為の考え方は日本になじみの薄いものですので、初版に続いて、判例のポイントを簡単にまとめ、幾つかの判例を示させて頂きました((9)から(12)の判決)。最近の不衡平な行為に関する判例は、どのような情報を、いつ、どのようなタイミングで開示すべきなのかに焦点を当てているケースが多いようです。情報開示制度義務に違反していると判断されると、せっかく取得した特許も行使できなくなります。米国特許制度に関与される日本の関係者にとって、益々重要な分野となっており、その考え方の基本を示す判決は大きな意味を持っています。
米国において、特許の保護を求める場合や特許権を行使する場合、様々な判例に基づいてその考え方を理解することは非常に重要です。このことは、例えば、米国の審査基準(MPEP:Manual of Patent Examination Procedure)を見ると明らかです。審査基準の具体的な考え方は判例が基本となっています。これが、判例法(Common law)の米国と制定法が基準となる日本との違いです。判決を理解することが、米国の特許制度の基本を理解するのに大いに役立ちます。また、判決で示される考え方はその判例特有な事象において重要なだけでなく、それ以前の過程において出願人等がどのように対処すべきか示唆しています。例えば、特許侵害訴訟のクレーム解釈に関する判例は、侵害訴訟時のクレーム解釈の考え方を示しており、裁判に於ける対応を示唆しているのは勿論、その以前の過程、すなわち、特許商標庁での審査手続きに於ける明細書やクレームの記載方法、特許庁とのやりとり等についても教示しています。また、情報開示義務制度に伴う不衡平な行為に関する判決は、特許出願手続き等における発明者等の義務のあり方を教示しています。特許の取得、および、行使においては、常に先を見越した対応が求められていますが、判決はこの点においても教示しています。このような観点からも、本著で紹介する各判例の意味するところを理解していただければ幸いです。