初めて契約書を作る時、どのような形にすればよいか迷うものである。特に、大学などの研究者が自分の研究を誰かに開示する必要ができた時に、企業関係者から「秘密保持契約を結びましょう」と言われたり、「共同研究契約を結びましょう」と持ちかけられたりした場合、急に契約書の雛型はないものかとあたふたとしがちである。
研究者は、常日頃、自分の自由な発想により知的活動を行っていれば、契約などは関係ないと思っておられるのかもしれない。しかし、日常の研究活動においても、常に契約は存在しているのである。大学内のことは、規則や規程で定められているが、対外的なことは契約が必要となることが多い。
例えば、
(1)研究を行うための事前文献調査
研究目的で文献のコピーを取ることは著作権にかかわり、許諾契約を要す。
(2)研究に用いる材料・器具の調達
使用する器具の購入は売買契約を要す。
(3)研究行為
実験手段等にリサーチ・ツール等の特許が存在する場合、特許権実施許諾契約を要す。
(4)共同研究
第三者と共同で研究する場合、共同研究契約を要す。
(5)第三者から研究を委託された場合
受・委託研究契約を要す。
(6)研究内容を他人に打ち明けたり、他人の意見を聴いたりする場合
秘密保持契約を要す。
(7)第三者と共同で研究成果を特許出願しようとする場合
共同出願契約を要す。
(8)成果物たる特許やノウハウを第三者に実施許諾する場合
実施許諾契約を要す。
(9)完成した技術をパッケージで移転する場合
技術移転(技術援助)契約を要す。
(10)技術コンサルタントを依頼された場合
コンサルティング契約を要す。
その他、研究者・技術者といえどもいろいろな場面で契約はさけて通れず、意識するか否かは別として社会生活や、研究活動を行うにあたっては、多くの契約を結び、履行しているのである。
研究者を取り巻く環境も大きく変わって来ている。平成16年4月1日に国立大学が法人化され、その後、多くの公立大学も法人化されてきており(私立大学は、もともと法人のもとにあった)大学の研究者は、法人の職員として対外的な契約関係を考える必要が出てきている。
大学の研究者を支援する産学公連携部署や研究推進部署の実務担当者は、大学の新たな使命である社会貢献の実をあげるべく、産学公連携活動を研究者と連携を密にしながら積極的に推進し、対外的な契約関係を円滑に進めていかなければならない。それには、技術契約を含む知財契約の知識が必須である。
本書は、大学の研究者及び実務担当者等、初めて知財契約を手掛けなければならなくなった人にも参考にしていただくために、難しい法律的な解釈ではなく、契約とは何か、或いはどのような考え方で相手と契約交渉に臨めばいいのか、契約管理はどのようにするか、知財契約にはどのようなものがあるかなどについて、知財契約に関する実務的事項を網羅したものである。
本書をまとめるにあたり、奥 登志生氏、金. 雄三郎氏、木村 友久氏、富崎 元成氏はじめ、山口大学産学公連携・イノベーション推進機構の皆様にご支援をいただいたことに、心より御礼を申し上げる次第である。
(監修者)