『國酒』という言葉が使われ始めたのは、昭和55年の閣議において、内閣総理大臣が『日本酒は國酒』と発言したことが嚆矢と言われている。日本の酒造りは、米、水等の日本を代表する産物を使うのみならず、日本の気候風土、日本人の忍耐強さ・丁寧さ・繊細さを象徴し、いわば「日本らしさの結晶」ともいえる。そうした國酒をはじめとする日本産酒類を海外に発信、展開していくことは、成長戦略としての輸出促進、地域活性化、日本文化の振興という観点から重要な意義をもっている。
1つ目は海外市場の開拓、すなわち成長戦略としての視点である。近年国内においては、人口減少や高齢化で、國酒を初めとして飲酒する人口は減少傾向にあり、消費量もなかなか増えない状況が続いている。一方で、国外に目を転じれば、世界規模では人口も増加しており、世界的な日本食ブームが広がりつつあり、そこには大きな市場と可能性が広がっている。これまでの日本の産業においては、まず国内における普及を念頭に、その後海外へ挑戦する企業が多く見られた。しかし、これからは最初から海外マーケットを見据え、どのように売っていくのかという発想が重要になる。その意味では、國酒を始めとした日本産酒類の輸出促進のための環境整備の取組は、グローバル・マーケティングによる市場開拓のモデル的取組となる可能性を持っている。
2つ目は地域活性化としての視点である。海外市場が求めているものは日本らしさであり、それぞれの酒蔵は、その歴史、伝統を継承していることから、地域における観光資源の中心になりえる潜在力を持っている。フランスで、各国からの観光客が有名なワインのシャトーなどを訪ねるように、日本酒、焼酎が海外市場で拡大すれば、海外からの観光客が、東京や京都などの代表的な観光地だけでなくて、地方の酒蔵を訪ねることも期待でき、日本全国に海外観光客が訪れるということが考えられる。地域活性化を推進する上では、その地域の中で核となる存在は必要であり、各地域の酒蔵はその伝統、多様性、求心力の面から地域のリーダーとなりえるものである。
3つ目は、日本文化の振興という視点である。國酒は、日本の伝統的な米作りの文化や豊富な水資源に支えられてきたものである。日本の米の消費量は減少傾向にあるが、日本酒という形に加工することでその付加価値が上がれば、ひいては日本の米作りを元気づけるものになろう。また、酒造りに欠かせない水も日本の貴重な資源であり、酒造りを通じて、水に対する国民全体の意識を高めることも、日本の自然や文化を守っていくことにつながる。さらに、こうした日本文化を体現する國酒を、日本食文化の一環として海外に展開していくことは、日本文化の海外発信につながり、日本文化の振興にも貢献するものである。
國酒をはじめとした日本産酒類の海外での認知度向上や輸出促進の取組は、これまでも担当府省によって個別に取り組まれてきたが、2012年5月に、国家戦略担当大臣により、「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」プロジェクトが発足し、府省横断的な官民連携によるオール・ジャパンとしての取組が強化された。2012年7月に閣議決定された日本再生戦略では、國酒をはじめとした日本産酒類の輸出促進のための環境整備が盛り込まれたほか、2012年9月には、有識者からなる「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」推進協議会において、その提言として「國酒等の輸出促進プログラム」がとりまとめられた。
このプログラムに基づき、関係府省や関係機関が一体となり、関係業界などと連携をとりながら、具体的な施策の推進を行うことになった。既に多くの施策が実行段階に移っているが、関係府省からなる國酒等の輸出促進連絡会議が、同プログラムの進捗状況のフォローアップと関係者間の調整を図ることになっている。
本書では、國酒等の海外展開と輸出促進に関するこうした最近の官民連携の取組として、「國酒等の輸出促進プログラム」の内容を中心に紹介するとともに、関連する資料やデータを掲載している。本書が、國酒等の輸出促進に関する官民連携の取組についての理解を助け、その推進を後押しすることになれば幸いである。