平成24年12月26日に発足した第2次安倍内閣は、我が国経済を、バブル経済崩壊から20年以上続く低迷とデフレから早期に脱却させ、持続的な経済成長を実現することで、強い経済、強い日本を創造するために「3本の矢」と呼ばれる、これまでと質・量ともに次元の異なる3つの柱からなる経済政策、いわゆる「アベノミクス」を推進してきている。
アベノミクス「第1の矢」は「大胆な金融政策」である。具体的には、政府と日本銀行が共同で、消費者物価の対前年比上昇率2%を「物価安定目標」とすることを初めて明らかにし、その早期実現のために、マネタリーベースを2年で2倍にすることなどを内容とする「量的・質的金融緩和」の導入を決定した。
これに続くアベノミクス「第2の矢」は「機動的な財政政策」である。景気の底割れを回避し、成長戦略につなげていくことなどを目的として、平成25年度当初予算と合わせた15ヶ月予算の考え方の下、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」及びこれを具体化する13兆円に上る過去最大額(リーマンショック後の非常事態を除く。)の平成24年度補正予算を決定した。
これら「第1の矢」、「第2の矢」によるデフレマインドの払拭によって、我が国経済の足下の状況を示す消費、雇用、株価、賃金などの指標は着実に好転しており、安倍政権の発足以降、我が国経済は、世界的に見ても最高水準の経済成長率を実現している。
アベノミクス「第3の矢」は、我が国経済が、景気回復を超えて持続的な発展の軌道に乗り、再興することを目指した「民間投資を喚起するための成長戦略」である。政府は、この「成長戦略」として、今後10年間の平均で名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度を実現し、10年後に1人当たり名目国民総所得(GNI)を150万円以上アップさせるという目標を掲げた「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)を策定した。
産業競争力強化法(以下、「本法」。)は、まさに、この「日本再興戦略」を政府一体となって強力に実行するための仕組みを構築するものである。
同時に、本法は、「日本再興戦略」を構成する3つのプランの1つである「日本産業再興プラン」における「緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)」を実行するという、より具体的な役割も担っている。すなわち、日本経済が抱える3つの歪み、「過剰規制」、「過小投資」、「過当競争」を根本から是正し、グローバル競争に勝ち抜く筋肉質の日本経済にするため、平成29年度までの今後5年間を「緊急構造改革期間」と位置付け、集中的に取組を進めるものである。具体的には、(1)民間投資を拡大し、設備の新陳代謝を図り、イノベーションの源泉を強くする、(2)過剰規制を改革し、萎縮せずに新事業にチャレンジできる仕組みを創る、(3)過当競争を解消し、収益力を飛躍的に高め世界で勝ち抜く製造業その他我が国産業を復活させる――本法はこれら3つの狙いを実現するためのキードライバーに位置づけられる。
平成11年、バブル経済崩壊後の過剰設備や過剰債務等のいわゆる「3つの過剰」の解消に向け、生産性の高い分野への経営資源のシフトを促すため産業活力再生特別措置法が制定された。同法は、その後、累次の改正を重ね「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(以下「産活法」。)に名称を変えたが、本法は、「産業の新陳代謝の活性化」を促進するという観点から、生産性の高い分野への経営資源のシフトを促すという産活法の精神を承継しつつ、いわばイノベーションによる新需要開拓を、これと並ぶ柱としている。このことは、本法第2条において、「産業競争力」を「高い生産性」及び「十分な需要」を確保することにより、高い収益性を実現する能力としている点に明らかである。
よって、本法の支援措置は、産活法の支援措置を、現下の経済情勢やこれまでの運用、加えてイノベーションによる新需要開拓の重視という観点から見直し、「産業の新陳代謝の活性化」に資するよう発展・拡充したものとなっている。例えば、事業再編の円滑化に関しては、複数の企業が経営資源を切り出し・統合することで、世界に通用する強い事業を創出する、新事業に挑戦するといった事業再編を、特に強力に支援することとしている。
また、事業拡張期にあるベンチャー企業に対するベンチャーファンドを通じたリスクマネー供給の促進や企業の事業再生支援の強化を図っている。更には、イノベーションによる新需要開拓の促進の観点から、これまでにあった「全国単位」や「地域単位」ではなく、「企業単位」の規制改革を推進するための支援措置を新たに盛り込んでいる。なお、このような事情から、本法の施行に伴い、産活法は廃止している。
これまでの政府による産業政策の歴史をやや乱暴に概括すれば、昭和53年に構造不況産業について過剰設備を計画的に処理すること等により石油危機後の不況の克服と経営の安定を図ることを目的として制定された「特定不況産業安定臨時措置法」を皮切りに、「特定産業構造改善臨時措置法」、「産業構造転換円滑化臨時措置法」、「特定事業者の事業革新の円滑化に関する臨時措置法」、そして「産業活力再生特別措置法」と、時々の経済情勢に応じながらも、特定業種を対象とする産業政策から業種横断的な産業政策としての性格を強めてきたといえる。本法は、この延長線上に新たに位置づけられ、業種横断的な産業政策を講じるものとなっている。そして、これらの中にあって、法律の名称、また法目的からも明らかであるとおり、最も包括的な政策といえる。したがって、本法は、平成30年3月31日までの時限立法としての性格を有するものの、今後の発展の可能性を大いに有し、将来の産業政策に基盤を提供できるものとなっている。
本法は、「成長戦略実現国会」と位置づけられた平成25年秋の臨時国会に提出され、同年12月11日公布、平成26年1月20日には直ちに施行された。平成26年4月の現在において、既に、本法が我が国の産業競争力の強化に資する企業の取組を後押しする事例が出てきている。
今後も本法が積極的に活用され、我が国の産業競争力が真に実現され、我が国経済の再興に寄与することを切に願っている。
平成26年4月
産業再生課