競争環境のグローバル化を始めとする市場環境の変化は、企業経営に対して、経営上の不確実性を増大させるとともに、ステークホルダーの多様化をもたらしています。また、少子化による生産年齢人口の減少に対応するために、企業としては、従来型の人材確保・活用策を変革することが不可避となっています。
こうしたなかで企業は、多様化する顧客ニーズを捉えてイノベーションを生み出すとともに、市場環境の急
角度での変化や不確実性の増大に柔軟に対応し、かつ投資家から信頼を得るために、多様な属性や価値観を持った人材を確保し、それぞれが能力を最大限発揮できるようにする「ダイバーシティ経営」の推進が求められています。つまり、「ダイバーシティ経営」は、市場環境の不確実性の増大やグローバル競争の激化の下で、企業が存続するために不可欠な人材活用戦略であり、「持続可能な成長」を目指す企業とっては遅かれ早かれ取り組まなくてはならない施策なのです。
もちろん、「ダイバーシティ経営」を推進し、多様な人材の活躍が可能となっても、そのことが自動的に企業業績に結びつくわけではありません。人材活用戦略としての「ダイバーシティ経営」が、経営戦略の実現に貢献できてはじめて企業業績として結実するためです。「ダイバーシティ経営」の推進は、自動的に企業業績に結びつくものではありませんが、それに取り組まない企業はビジネスチャンスを失うことになります。この点が重要なのです。
つまり、経営トップのコミットメントの下に、経営戦略に対応した「ダイバーシティ経営」を推進することで、多様な人材がそれぞれの能力や持ち味を活かすことでき、それが経営上の具体的な成果として結実し、企業の中長期的な成長力につながることを確信して持続的に取り組むことが大事なのです。
一つ強調したいのは、ダイバーシティ経営とは「多様な人材の活用自体が目的ではない」ということです。経営トップが “適材適所”を実現するため、働き方や職場風土を変えることによって、適材を選ぶ範囲を、従来の「日本人・フルタイム・男性」から、女性、外国人、短時間勤務の人へと広げていくことが、企業業績に結実する方策です。
他方で、多様な属性や価値観を持った人材を束ねて、事業戦略上の目標に向かってパフォーマンスを最大化するためのマネジメントは、同質集団を率いる従来のマネジメントに比べ、遙かに高度なものですが、組織内の様々な「慣性」を断ち切るためにも、トップの強いリーダーシップと継続的な取り組みが不可欠です。さらに、多様な価値観を持った人材が、ばらばらにならずに、それぞれの行動が価値創造につながるためには、個々の人材の価値判断の軸となる企業の経営理念を浸透させることも重要な要素です。ダイバーシティ経営には、企業の経営理念による多様な人材の統合も必要になります。
「経済産業省ダイバーシティ経営企業100選」は、経営戦略に貢献できる形で「ダイバーシティ経営」に取り組み、それを具体的な経営上の成果として結実させた企業を選定するもので、2年目の平成25年度では、全国各地の多様な業種の大企業・中小企業46社を表彰しました。
本書には、この46社の取組とその成果をまとめた「ベストプラクティス集」とともに、これらの事例から共通項として抽出されたダイバーシティ経営を進める上での成功への王道である「ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方」と、具体的な「取り組みのアイデアリスト」を収録しています。
企業関係者にとっては、「ダイバーシティ経営」推進の手引書として、これから就職活動をされる学生や保護者の皆様、そして教育関係の方にとっては、「ダイバーシティ経営」に取り組む企業やその重要性を広く知っていただく資料として、本書が広く活用いただけることを心より願っています。
平成25年度ダイバーシティ経営企業100選運営委員会 委員長
東京大学大学院 情報学環 教授
佐藤 博樹