日本では、特許明細書作成の際に、一般の辞書では載っておらず特許の世界でしか通用しない難しい技術用語、いわゆる“特許技術用語”がしばしば使われる。その中には、抽象的な特許権利範囲を文字で的確に表現し、上位概念化して広い権利を確保しようとして、包括的な意味を有する造語、一般辞書の解釈と異なる意味合いの用語、および使用される場面に応じて異なる意味合いを有する用語などが含まれ、難解なものが多い。
日本企業のグローバル化進行に伴い、諸外国への特許出願もここ十数年増えつつある。とりわけ、巨大市場と期待される中国への出願件数は、2000年の1万件足らずから2014年の4万件にまで達している。中国へ出願する際に、日本語明細書に基づき中国語へ翻訳して出願するのは一般的であり、その時に、この“特許技術用語”をどのように中国語へ翻訳するかは避けて通れないものである。
しかし、一般辞書としての日中用語辞典、或いは日中技術用語辞典には、このような“特許技術用語”は殆ど収録されていない。特に、包括的な意味合いを有する“特許技術用語”に対応した同じ包括的な意味合いの中国語対訳自体が存在しない場合は多いため、如何にして適切な中国語訳をつけるかは大変難しいことである。
そのため、日本語明細書から中国語明細書へ翻訳する際に、“特許技術用語”の中国語訳は翻訳者或いは弁理士の個人経験に委ねられることが多い。この“特許技術用語”の意味合いを的確に把握するのは困難であるため、同じ用語でも対応する中国語訳は定着せず翻訳者によって変わっていく。また、適正な中国語訳が見当たらないため、日本語漢字のままを中国語に訳し難解な中国語となってしまうなどの問題が生じる。
日々の実務の中で、このような難題に直面しているが、特許技術用語の日中専門翻訳辞書はなく、場当たりの対応に依存し、適切な中国語対訳も承継されていない。
日中間の特許権利化実務を長年携わっている中で、このような問題にさんざん悩まされ、専門翻訳辞書が手元に欲しかったと痛感し、日頃よく使われる“特許技術用語”を集め、本書の刊行に至った次第である。本書が日本語明細書に基づく中国出願の的確な翻訳、権利範囲確保及び権利解釈の場で活用されることを期待して、中国における知財活動に少しでもお役に立てば幸いである。
本書刊行にあたって、佐伯義文氏、小畑芳春氏、田部元史氏、王俊氏、萩原昌明氏を始め、特許業務法人志賀国際特許事務所の先生方々から多大なるご協力を頂き、また、本書の全体構成検討及び校閲にあたり、元奈良県発明協会知財支援アドバイザーの尾崎行則氏にご指導・ご支援を承ったこと、弊所弁理士の楊楷氏、侯莉氏、王.瑶氏及び弊所の所員達にご助言・ご尽力を頂いたこと、合わせて心より御礼申し上げたい。
最後に、この場を借りて、陰で長年支えてくれた家族に、心から感謝の意を表したい。
代表弁理士 毛立群
立群専利代理事務所