リーチレター(LIETI LETTER)に2014年1月から毎月連載されている「技術力、特許力」の小論が3年目に入り、各回多くの反応があり、単行本期待の声もある中で、この小論集を基本に編集して単行本として発行することになった。
著者は、青山学院大学法学部特別招聘教授 石田正泰(理論体系編担当)と東京理科大学 イノベーション研究科 知的財産戦略専攻教授 石井康之(事例・実証編担当)である。
企業経営においては、知的財産を自社の重要な経営資源・競争軸と位置づけて対応することが必要不可欠である。そして、いわゆる、企業経営に資する知的財産は、質の良い知的財産と具体的な戦略及び人材の存在によって実効性が確認されるのが実情であり、(1)知的財産リストを管理するのではなく企業経営に資する知的財産管理を考慮し、(2)知的財産経営に関し把握・整理し、(3)知的財産経営に関する論点(知的財産の位置づけ、知的財産ポリシー等)を整理し、(4)事業形態(ビジネスモデル)についての知的財産の取得・活用戦略を整理し、(5)知的財産経営の組み立て・知的財産ポリシーを策定する等である。
要は、企業経営に資する知的財産のポイントは、「技術力」、「知財力」、「人間力」であり、本書は、このような認識のもとに編集された。なお、「技術力」、「知財力」、「人間力」につき付記する。
(1)「技術力」
昨今、企業経営においては、知的財産を重視する傾向が顕著になっている。そして、その基本的要素、課題は何かについては、いろいろの観点、指摘があるが、知的財産に関する「技術力」、「特許力」、「人間力」の評価、認識が重要である。
ところで、「技術力」の意義についてはいろいろの考え方があるが、産業技術力強化法の「産業技術力」、「技術経営力」の定義が参考になる。すなわち、「産業技術力」とは、「産業活動において利用される技術に関する研究及び開発を行う能力並びにその成果の企業化を行う能力」であり、「技術経営力」とは、「技術に関する研究及び開発の成果を経営において他の経営資源と組み合わせて有効に活用するとともに、将来の事業内容を展望して研究及び開発を計画的に展開する能力」である。
従って、企業経営において、知的財産に関する「技術力」の評価、認識においては、産業技術力強化法の「産業技術力」、「技術経営力」の定義を参考にして「産業活動において利用される技術に関する研究及び開発を行う能力並びにその研究開発の成果である知的財産の機能を利用して企業化を行い、他の経営資源と組み合わせて有効に活用するとともに、将来の事業内容を展望して研究及び開発を計画的に展開する能力」とまとめることが可能であり、適切であろう。
要は、企業経営において、「技術力」は基本的要素であり、その欠如は問題である。
(2)「知財力」
また、「知財力」の意義についてもいろいろの考え方があるが、昨今の知的財産関係実務については、「権利を取る」より「権利を使う」ことに重点が移っており、しかも、技術のハイテク化に伴って、技術開発には多額の投資が必要となり、その投資額を回収するためには、他社が自社の知的財産権を侵害している場合、厳しく対応する傾向が強くなっており、いわゆる、プロパテント、すなわち、知的財産重視の時代であり、その基本は、広く、強く、役に立つ特許、換言すれば知的財産の代表である特許の力、即ち「知財力」である。
広く、強く、役に立つ特許とは何かについてもいろいろの考え方がある。例えば、幅広い権利行使が可能な特許、無効になりにくい特許、経営に資する特許などである。特に,昨今、「権利を取る」より「権利を使う」ことに重点が移っている中で、知的財産関係契約における戦略的対応により、所謂、「特許力」を強化することが大いに期待されている。
要は、企業経営における知的財産戦略の基本的要素は「知財力」である。
(3)「人間力」
知的財産を重視する企業経営において、知的財産に関する「技術力」、「知財力」、「人間力」の評価、認識が重要である中で、「人間力」の意義についてもいろいろの考え方がある。企業経営の基本的理念は、持続的発展であり、企業が持続的発展を確保するためには、自社の強みを維持・強化し、他社との差別化を図り、それを自社の重要な経営資源・競争軸と位置づけて対応することが必要不可欠なことである。
そして、自社の強みを維持・強化し、差別化を可能にする最も重要な要素が企業経営に資する知的財産であり、かつ、特定の知的財産自体ではなく、企業が保有する知的財産の機能を十分に発揮させる戦略及びそれを実行する人材・組織により経営戦略に練り込まれた位置付けにおける知的財産、すなわち、「企業経営に資する知的財産化された知的財産」と解すべきである。
各企業は、保有する知的財産のリストを管理するのではなく、企業経営に資する知的財産を管理することを考慮することが期待される。すなわち、企業経営における知的財産管理は、企業経営に資する知的財産化する人材・組織、経営戦略なしには機能しないのである。このような、企業経営に資する知的財産化する人材・組織、経営戦略の中核をなすのが、所謂、「人間力」である。
なお、本書は、リーチレター(LIETILETTER)に毎月連載された小論を編集したものであり、従って、項目ごとに独立した利用も有益である。
2016年4月
石田 正泰
石井 康之