競争環境のグローバル化を始めとする市場環境の変化は、企業経営に対して、経営上の不確実性を増大させるとともに、ステークホルダーの多様化をもたらしています。また、少子化による生産年齢人口の減少に対応するために、企業としては、従来型の人材確保・活用策を変革することが不可避となっています。
こうしたなかで、企業は、多様化する顧客ニーズを捉えてイノベーションを生み出すとともに、市場環境の変化や不確実性の増大に柔軟に対応するために、多様な属性や価値観を持った人材を確保し、それぞれの能力を最大限発揮させる「ダイバーシティ経営」の推進が求められています。
もちろん、「ダイバーシティ経営」を推進し、多様な人材の活躍が可能となっても、そのことが自動的に企業業績に結びつくわけではありません。また、多様な人材の活躍自体が目的でもありません。経営トップが人材戦略を経営戦略としてとらえ、“適材適所”を実現するため、働き方や職場風土を変えることによって、適材を選ぶ範囲を、従来の「日本人・フルタイム・男性」から、女性、外国人、短時間勤務の人へと広げていくことが、企業業績に結実する方策です。
他方で、多様な属性や価値観を持った人材を束ねるマネジメントは、同質集団を率いる従来のそれに比べ、遙かに高度なものですが、組織内の様々な「慣性」を断ち切るためにも、トップの強いリーダーシップと継続的な取組が不可欠です。さらに、多様な価値観を持った人材の行動を競争力につなげるためには、個々の人材の価値判断の軸となる企業の経営理念を浸透させることも重要な要素です。ダイバーシティ経営には、企業の経営理念による多様な人材の統合も必要になります。
「経済産業省ダイバーシティ経営企業100選」は、経営戦略に貢献できる形で「ダイバーシティ経営」に取り組み、それを具体的な経営上の成果として結実させた企業を選定するもので、平成24年度から開始し、140社あまりの優良企業を選定してまいりました。27年度からは、この動きを一層加速化していくため、新たなフェーズとして、重点テーマを設定した「新・ダイバーシティ経営企業100選」を開始しました。
本書には、平成27年度の受賞企業34社の取組とその成果をまとめた「ベストプラクティス集」とともに、これらの事例から共通項として抽出されたダイバーシティ経営を進める上での足がかりとなる「ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方」と「取組のアイデアリスト」を収録しています。
企業関係者にとっては、推進の手引書として、これから就職活動をされる皆様にとっては、「ダイバーシティ経営」に取り組む企業を知っていただく資料として、本書が広く活用いただけることを心より願っています。
平成27年度 新・ダイバーシティ経営企業100選運営委員会 委員長
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
佐藤 博樹